Ametsuchi I

Device – Nature Player

デジタル掛け軸の生み出す自然軸の時間と空間

「Ametsuchi I」 は掛け軸をモチーフにした装置から、自然の音とCGによって抽象化した自然現象の映像を再生します。それによって人工物に囲まれた環境とは異なる自然の流れを室内に存在させることを可能にします。

掛け軸には「掛けて拝む」という礼拝的な意味合いから、花鳥風月を楽しむ審美的な機能、また茶の湯での主人と客人とのコミュニケーションの媒体としての機能と、歴史を経てその機能を発展させています。「Ametsuchi I」 はこの掛け軸の文脈を引き継ぎ現代的にアップデートしています。デジタル掛け軸に流れる映像は日本の太古からの自然が残る土地の自然音をもとに、コンピュータシミュレーションによる抽象化した自然現象を表現しています、映像はカートリッジ式になっており、その日の気持ちに合わせて映像を入れ替えられるように設計されています。

「Ametsuchi I」 は個人の内的世界を豊かにすることから、他者との関係をより良いものにすること、内から天地へ広がる自分自身の環境を象徴的に室内に表現することができます。

Ametsuchi I – no.1
サイズ(Size): 878 × 418 × 70 mm
重さ(Weight): 5.5kg
素材(Material): 木製フレーム(Wooden Frame)、マイクロコンピュータ(Microcomputer)、LCDディスプレイ(LCD Display)、フルレンジスピーカー(Full-range Speaker)
制作年(Date of Manufacture): 2023

[Contents]

Gold Waves

「Gold Wave」は太陽と地球の運動によって変化する大気のダイナミックな変化。月と太陽の引力、空気の振動によって影響を受ける波の動き。この2つの事象を一つの映像として融合しています。大気の変貌を象徴した色相の変化を背景に動く金色の波は、万物が互いに関わり合いひとつの事象として成立し、その事象もまた他の事象と関係しあうというこの世界の精妙な仕組みを象徴しています
また、波の動きはコンピュータシミュレーションを用いて流体力学の計算をもとに、無数の小さな粒子として表現しています。波の音は西表島の静かな浜辺で飛行機、自動車などの人工的な音の発生がの限りなく少ない土地で録音しています。聞き馴染みのよいように波の音のフレーズをひとつひとつリズムを保つように再構成しています。波のリズムに合わせて、仮想空間の波の動きを調整し、視覚と音の連動を実現しています。

映像の長さ(Duraton): 24min
録音地(Recording Location): 中野浜, 西表島(Nakano Beach, Iriomote)
制作年(Creation Date): 2022
エディション(Edition): 100

Gold Falls

「Gold Falls」は自然現象としての滝の動きを象徴化した作品です。地球の重力によって、位置の高いところにある水が、空気抵抗と摩擦によって形を変化させ続けながら落下する。その働きに滝の本質があると考えます。コンピュータシミュレーションを用いて、水の最小構成要素として一粒の粒子に分割し、その無数の集まりを地球に働く力と同じように作用するようにシミュレーションの調整を重ね、滝という現象のエッセンスを表現しています。
「Gold Falls」は地球の重力によって地上に水が降り注ぎ、その恩恵によって万物が生かされていることを滝という現象の本質を抽出することで、新鮮な認識として感じることを意図して制作しています、

映像の長さ(Duraton): 26min
録音地(Recording Location): 白糸の滝, 富士宮(Shiraito Falls, Fujinomiya)
制作年(Creation Date): 2023
エディション(Edition): 100

Crystal Silence

「Crystal Silence」は手つかずの自然が残る屋久島の奥地、白谷雲水峡の雨の日の森の音と小川のせせらぎを録音し、その清涼な森の雰囲気を回転する流体の円の連鎖で象徴しています。
録音をしたその日、白谷雲水峡の小川は、霧に覆われあたり一面が白く霞んでいました。小川を渡ろうとする時、一匹の大きな猿がゆったりと横切り、私に一瞥をしたあと、立ち去っていきました。その出来事には、なにか心のなかで静かに湧き上がるものがありました。人は自然の中で、本来持っている野生の部分を思い出すのだと感じました。「Crystal Silence」には、その時その土地から感じた、透明で神秘的な空気を表現しています。

映像の長さ(Duraton): 60min
録音地(Recording Location): 白谷雲水峡, 屋久島(Shiratani Unsuikyo Ravine, Yakushima)
制作年(Creation Date): 2022
エディション(Edition): 100

Circles – no.1

「Circles – no.1」はこの世界に存在する周期的な回帰を、ほとばしる円として象徴しています。日々の生活が新しい円を描くように、年々、日々、瞬間瞬間に何度でも刷新していけることを表しています。
西に沈む太陽は再び、東から昇り、欠けた月が再び円に変わるように、冬に木々が枯れて春に芽吹くように、それぞれの存在は何度も円を描くように繰り返し新たに始まりを続けます。映像の中でほとばしる円一つ一つがあらゆる存在の回帰的な一生を表しています。この世界に誕生してほとばしるように生きていく人間、動物、植物、天体の背後に存在する神秘的な周期性を讃える映像です。

映像の長さ(Duraton): 12min
録音地(Recording Location): イダの浜, 西表島(Ida Beach, Iriomote)
制作年(Creation Date): 2022
エディション(Edition): 100

Fuji

11月のよく晴れた日の夕方、太陽が沈み富士山が赤く染まっていきます。それに合わせるかのように、種々の野鳥達がオーケストラのように囀り合います。撮影・録音は3日間にわたり、その中から視覚的にも聴覚的に最も美しい1時間のひと時を映像にしています。

映像の長さ(Duraton): 60min
録音地(Recording Location): 田貫湖, 富士宮(Tanuki Lake, Fujinomiya)
制作年(Creation Date): 2021
エディション(Edition): 100

[Process of Creation]

Field Recording

自動車や飛行機などの人工音の限りなく少ない自然の音を収録するために豊かな生態系が残る離島や森の奥地を訪れます。そして、周辺を歩き回り、録音に適したポイントを見つけます。コンデンサーマイクを使用し、自然や生物の発する音を低周波から高周波まで細部に至るまで長時間の記録をします。

西表島 サンゴ礁の浜辺
録音に使用するコンデンサーマイク

このプロセスの中で録音をするその場にじっと佇み続けます。コンデンサーマイクによって機能の拡張した聴覚は遥か遠方の鳥の音も認識します。その土地の気配をより鮮明には把握することができ、そこで生まれた新たな気づき/臨場感の感覚は後の視覚表現の創作プロセスにも影響を与えます。

屋久島 白谷雲水峡